金
10
9月
2010
本来の「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」とは、全ステークホルダーに対する健全な「説明責任」と、「持続可能な未来を社会とともに築いていく責任⇒社会貢献活動」を包含します。歴史的な流れを見ると、欧州における、ビクトリア朝の思想「Noblesse Oblige」に基づいた「高貴なる者による弱者救済による継続的社会の存続」と、米国における、主にSOX法に代表されるような「企業内の法的整備」が統合されて、現代の企業の倫理観として世界的に認識されています。また、1999年の世界経済フォーラムにて当時のアナン事務総長が提唱した「人権・労働・環境・腐敗防止」に関する10原則を定めたイニシアティブである「グローバル・コンパクト」によって、より一層「企業と社会」の共生関係を厳格化する意味で、CSRを重視する傾向が強まってきていると思われます。
【日本でのCSRとは】
では日本ではどうかと言うと、CSRという言葉は実は1970年代から使用され始めたようですが、実態的には1990年の経団連(当時)の「1%クラブ」(経常利益の1%を社会還元するとした活動)の設立で社会的な認知が拡がったとされています。ただその基本姿勢は、「持続可能な社会の実現」というよりは、「利益の社会還元」にあり、法令順守(コンプライアンス)や企業統治(コーポレート・ガバナンス)等の企業のマネジメントに関する事柄とは別の「企業責任」として扱われてきたようです。
本格的な「日本型のCSR」の始動は1990年としましたが、そこには2つのカテゴリーが存在してきました。それは「フィランソロピー」と「メセナ」です。「寄付(チャリティ)」に関しては、共通した「行為」ですのでここでは除外します。
<フィランソロピー>
まず「フィランソロピー(Philanthropy)」ですが、これはそもそも「人類愛・博愛・慈善」という意味ですが、その精神の下に、事業で得た利益を慈善活動として社会に投入することこそ、「企業の社会貢献活動」であるというイメージを定着させてきました。前述の経団連の「1%クラブ」もこの思想の下結成されています。
<メセナ>
また芸術・文化のスポンサードに始まり、美術館やコンサートホールが相次いで建設された時代がありましたが、この活動は「メセナ/mecenat(文化の擁護)」と呼ばれており、そもそも古代ローマ時代のマエケナスという人物が、芸術家を擁護・保護した歴史に由来した言葉です。1990年に「芸術・文化」の発展に寄与することを目的に「企業メセナ協議会」が設立されましたが、「スポンサー」や「パトロン」ではなく、この「メセナ」を採用したことで、企業による芸術・文化に対する支援を表す用語として使われるようになりました。但し学説的に、「メセナ」とは「フィランソロピー」の一分野とする見方が自然でしょう。
以上の2つのキーワードの下に、各企業は各種のボランティア制度やマッチング・ギフト等の制度を導入し、CSR活動の拡がり方は定着しているかのように思えますが、現在企業内のCSR部門が以前の「メセナ・フィランソロピー」担当部署が名称変更した形で存在している状況を見るだけでも、いまだに「CSR=利益の還元」という大原則が残ったままであり、「日本版CSR」とは、本来の役割からも時代の要請に対しても、時代遅れな感じは否めません。
[進む世界的なCSR戦略]
現在の企業を取り巻く環境は、世界的に大きく変革を求められる傾向にあります。つまり、前述の国連の「グローバル・コンパクト」や米国のSA8000(ソーシャル・アカウンタビリティ・インターナショナル)の提唱、さらには、本年末に発表されるISO/SR26000/(組織の社会的責任ガイダンス規格/世界標準化機構))等を通して、企業は新たな“公”としての役割を厳しく求められる状況にシフトしてきています。
「新しい公」とは、企業が従来外から“公”を支援してきた形とは違い、完全に企業市民として“公”の中で存在していくことを表しています。ISOが本年発表するガイダンスも「SR」となっており、「C」が抜けています。つまり、全ての団体・人の行動基準のガイドラインを示すものです。敢えて記すなら、従来の「C」はCorporate(企業)の「C」ですが、そこには消費者(Consumer)と市民(Citizen)の「C」も含まれており、本来CSRとした方がより具体的ですが、そうではなく、全ての存在に対して「SR(Social Responsibility/社会的責任)」を求めることを表現していると解しています。
その観点からこれからの企業の在り方を考えると、「企業としての成長」とそれを取り巻く「社会の成長・維持」を同根で見つめ直す必要があります。企業の透明性を軸に、社会への自主的かつ積極的な投資・支援を通して自社のブランド価値の向上と「新しい公」のフレームを創造し、企業の成長基盤を確立するサイクルを作りだしていくことが重要です。しかも、企業にとって必要な資金調達に関しても、既に「社会貢献投資(SRI)」が市場の2割を占めてきていることを見ても、投資家は既に視点をシフトしてきていることが分かります。
アメリカン・エキスプレス社が「コーズ・リレイティッド・マーケティング」を実施したのは1983年です。つまり「CSR」より前の話です。同社は「自由の女神の修復」の社会貢献活動が有名ですが、実は世界遺産への保存活動にも注力してきており、それは自社が旅行代理店としての事業にしっかり役立てられています。まさに「地球にWIN、自社もWIN」です。
これからの企業には、昔ながらの「CSR」を捨てて、「SR(社会的責任)」に基づき、「新たな公」のメンバーとして、「新しい社会戦略」を仕掛けていただきたいと切に願います。